イスラエル総選挙

月4日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

1月29日、イスラエルでは総選挙がありました。午後10時半過ぎ、何気なくテレビのスイッチを入れたらユロニューズでした。ミッツナ労働党党首が支持者に話しかけているところでした。「Live」とありました。「あれ」と戸惑いが走りました。大方の予測では、リクード勝利、労働党敗北でした。ユロニューズがミッツナ党首を長々と、しかも、Liveで取り上げていたので、予測を覆す大逆転劇となったのかな、と思ったのです。

11時近くなって、リクード35議席、労働党16議席と、その時点での当選者数がでました。ヨーロッパのメデイアが、パレステイナとの和平を進める労働党の予測を超えた敗北に、強いショックを受けたのではないかと思いました。日本のメデイアも対パレステイナ強固政策を採るシャロン政権続投で中東和平の実現を危ぶむような扱いではなかったでしょうか。最終結果では、リクードが38議席で第一党、右派勢力は過半数を超える69議席となりました。

翌30日、聖墳墓修道院の昼食時、選挙結果が話題となり、「シャロンの勝利はテロリストたちのお陰」との意見に反対する人はいませんでした。

最近のカトリック新聞(1月26日)がベトレヘム大学副学長ビンセント・マルハム修道士の言葉を紹介していした。ベトレヘムは、いまだ、イスラエル軍の管理下にあり、道路封鎖、外出禁止令は随時(軍の気まぐれ)出されます。このため、ベトレヘム大学では「講義の履修や試験の日程」が組めずに苦慮している。そして、これはパレステイナ人に対する「新たないじめ」と断じ、「パレステイナの若者たちの教育を継続する権利と、ベトレヘムの住民の、生活と移動、自由な呼吸と労働、子供たちの教育への権利を要求しています。」

ところで、どうして、このような「基本的な人権」が阻害されているのでしょう。また、どうして、ブッシュ大統領はイスラエルを「ならず者国家」と言わないのでしょう。それは、パレステイナが「イスラエルとの共存」を認めないどころか、「イスラエル国家」の存在さえ認めないからです。

オスロ協定はアラブ人がイスラエル国家を認める代わりに、イスラエルはアラブ人がパレステイナ国家をつくることを認めると言うものでした。アラファト率いる対イスラエル抗戦最大派閥PLOが中心となってパレステイナ暫定政府をつくり、イスラエルとの協調関係を保ちながら、独立国家建設に向かっていました。最終段階を迎えた2000年、領土問題とエルサレム問題とはどうにかクリアしたものの、難民の帰還問題を乗り越えることができませんでした。パレステイナ側は「無条件」の帰還を主張していす。

しかし、イスラエルにとっては難民の無条件の帰還は「国家の存続」を脅かす要因となるのです。この段階で、イスラエル国内でも、パレステイナ諸勢力の間でも、和平交渉に対する不信感が増大し、9月、シャロンが神殿跡地を訪問したことがきっけとなり、パレステイナ側の占領地奪回闘争、Intifadaとなりました。この結果、和平を推進してきたバルク(労働党)政権は選挙で敗れ、退陣しました。そして、シャロンが政権を握り、テロ行為を繰り返す武闘派をアラファトが押さえ込むことが出来ないなら、イスラエルが行動するしかないと軍事力の活用をためらいませんでした。その結果がパレステイナの惨状です。

イスラエル国民は選挙で意志表示しました。イスラエルは市民の安全は自らで護る。ホロコーストの体験からの固い信念です。

パレステイナ住民が「人間らしい生活」を求めるなら、テロを止め、イスラエル市民の安全を保証しなければならないでしょう。それに、アラブ諸国も、パレステイナ住民のためイスラエルへの敵対関係を止めなければならないと思います。

これが実現するとき、中東問題も、その時、解決するはずです。