舵取りを間違う

6月25日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

6月21日は気が滅入る一日でした。
18日の南エルサレムでの路線バス自爆テロ、19日の北エルサレム、フレンチヒルバス停での神風テロ、20日、入植地イタマル(Itamar)での4家族5人殺害テロと3日連続テロで、イスラエル政府は西岸主要都市再占拠の軍事行動に出ました。21日、ジェニンに進攻したイスラエル軍戦車が市場を砲撃し、子供3人が死亡、数十人の負傷者が出た惨事がありました。

21日、事件後の衛星放送、ユロニュースは30分刻みのニュース番組で、イスラエル軍のジェニン市場砲撃事件を伝えていました。その映像です。5歳前後の女の子が現場から逃げ出して来ました。道端のお父さんに気づかず、走り過ぎました。お父さんの声で立ち止まり、そして、お父さん目掛けてUターンし、腰にしがみ付きました。お父さんは子供の頭を抑え、安心させようとしていました。しばらくして、お父さんの腰から顔を離した女の子は、まだ、恐怖におびえた顔でした。

その同じ日、TheJerusalemPostはフレンチヒルバス停自爆テロで巻き添えとなった犠牲者に関する記事で一杯でした。

その一つ、大学卒業の日、友達と現場で待ち合わせをし、これからタクシーを拾って二人で家に戻ると携帯でお母さんに話した直後、二人とも永遠に帰らぬ人となりました。また、「海をも満たす私の涙」と叫んだ犠牲者の母親がいました。1年6月の息子を乗せた乳母車を実母が押し、3人で道路を横断してバス停に近づいたとき、災難に遭いました。翌日、病院のベットから無理して立ち上がり、「私が出来る最後のこと」と同じ日に、息子の葬儀と実母の葬儀に立ち会うはめとなった犠牲者の話です。それに、パレステイナの町に進攻したイスラエル軍指揮官が、除隊を一週間後に控えた19日、至近距離から手りゅう弾を投げられ、戦死した記事もありました。

「Intifada」、パレステイナ人の占領地奪回闘争は、まだ、初期の目的を果たしていません。確かに、イスラエル市民に「占領地から撤退しよう」との平和活動を起こしました。しかし、むしろ、今回の闘争を始めてから、パレステイナが失ったものはあまりにも多すぎます。

23日、イスラエル政府は正式にイスラエルとパレステイナ西岸地区とを分離する防御ヘンス建設を承認いたしました。計画書によると、67年ラインより20%以上、パレステイナ側にはみ出しているので、パレステイナから反発が出ています。また、当然、ヘンスの設置によって、所有地が分断されるケースがあり、新たな争いの火種ともなりそうです。また、イスラエル西岸入植者もヘンスの外側に取り残されるので、パレステイナ武装集団の標的にされるとして、反対しています。しかし、大多数のイスラエル市民はテロリストから身を守るにはヘンスに頼るしか他に方法がないと考えるようになりました。

ヘンス設置はテロリストの侵入を防ぐためばかりではないと思います。イスラエル社会のアパルトヘイト、アラブ人を分離、排斥する運動の具体化とも考えられます。イスラエルとパレステイナが国境に準じたヘンスで分断され、人も物もその出入が主要道路の検問所で管理されることになるからです。また、イスラエル国内のアラブ人差別が加速することも予測されす。

現に、イスラエル国籍を持つアラブ人家族の児童手当の25%ー30%削減計画が発表されています。長引くIntifadは経済活動に大きな打撃を与えています。これはパレステイナばかりでなく、イスラエルにとっても同じです。イスラエルは、今、テロとの戦いばかりでなく、財政再建にも取り組まなければならない状態です。軍事費がかさむなか、歳出削減が早急の課題なのです。

児童手当も例外ではなくなりました。政府案では「軍役に服しない」アラブ・イスラエル家族と宗教特権を持つ家族とに対しては児童手当を25%−30%削減すると言うものです。宗教政党はこの案に反発して、連立から離脱しましたが、シャロンは妥協しませんでした。ラビから連立を離れた愚かさを指摘され、今は連立に戻っています。アラブ・イスラエル家族は児童手当が削減されれば、ほとんどが貧困家庭になってしまうと指摘されています。国連の人権機関はこの政策はアラブ差別だと非難しています。

パレステイナ住民の大多数はイスラエル市民を対象とした神風攻撃はパレステイナ住民に残されて唯一抵抗手段として容認しています。しかし、最近、BBCがガザ住民の声として、イスラエル住民に対する自爆攻撃がパレステイナ国家建設の妨げになっているとの意見を紹介しました。また、19日、パレステイナ知識人55人が連名で、若者たちをテロに掻き立てることを止め、はやる彼らの心を静めるべきで、民間人に対する自爆攻撃は両民族の溝を深め、共存の道を閉ざし、テロキャンペーンで打撃を受けるのはパレステイナなのだとの意見書を新聞(AlQuds)に載せました。

イスラエル軍はパレステイナ暫定自治区に展開し、駐留しています。再占領との批判があります。これに対して、イスラル住民に対するテロ攻撃が治まるまで駐留すると言うのがイスラエル側の発表です。

確かに、イスラエルは西岸地区を占拠しても、軍政を敷く意図はないと思います。西岸200万のパレステイナ住民を「イスラエル住民」として治めるための財政的ゆとりは今のイスラエルにはないからです。ですから、はやばやと行政権は暫定自治政府にあると言っています。

ここです。イスラエルにはガザ、西岸のパレステイナ住民400万を加え、統合し、諸権利を共有する市民社会を造る意図はありません。財政的に不可能です。それに、アラブ人を分離したいとの差別意識があります。本心はパレステイナ人が自分たちの国を造り、独立してくれるこです。これを妨げているのがテロ行為です。

一昨年9月、パレステイナは国家建設を目の前にして、クリントン提案を拒否し、Intifadaに入りました。1年8月後、アラファトに残されたものは、「イスラエルに復讐を叫ぶ住民400万を治める」と言う行政権だけです。パレステイナ丸の船長は舵取りを間違いました。