緊張下のパレスチナ 人間の尊厳を無視する検問

3月16日(2)

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

これは毎日新聞3月6日付け「記者の目」のタイトルです。カイロ支局小倉孝保記者の全文記事をインターネットで読みました。

日常的に繰り返されるパレステイナ住民への無数の「圧迫」の典型的例として検問所でのイスラエル兵の態度を「人間の尊厳」を無視するものとして取り上げています。1月29日、ヨルダン川西岸、ナブルス検問所で検問のため数十台の車が並んでいた。そこへ、救急車が2台来て止まった。記者が救急車を先に通すようにと掛け合おうとして車を降り、検問所へ近づこうとしたら、イスラエル兵が銃口を向けて、「止まれ」と叫んだ。イスラエル政府発行のプレスカードを示したら、銃口を下げた。「救急車はテロと関係ない。これは人道の問題だ」と言うと、「私たちは軍人だ。軍隊に人道的対応なんて求めるな」。「現実の厳しさをわからせようとする口調だった。」とありました。

数日前、エルサレムからテイベリアへ路線バスで旅をしたとき、これまでとは違った緊張感が漂っていました。検問所では、どこでも、一人の兵士が銃口を迫ってくる車両に向けていました。最近、検問所がテロリストに襲われ、イスラエル兵が殺傷される事件が多発しているので、自衛のためと受け止めました。

そして、小倉記者の記事ですが、2月25日、パレステイナ人妊婦が夫の運転する車で出産のため病院に行く途中、ナブルス検問所で、妊娠の確認のため服を脱ぐように強要され、しかも、もたつく検問にいらだった夫が検問所を突破しようと車を発進したところ、イスラエル兵が発砲して、夫は射殺(、妊婦も腹部に被弾)された事件が載っていました。

この事件は、翌26日のイスラエル新聞に報道されました。しかし、イスラエル新聞では、同じ25日、ベトレヘム郊外で妊婦を乗せたイスラエルの車が「闇討ち・辻斬り」に遭い、同乗の父親とほかの男性が射殺され、妊婦は腹部に被弾、彼女の娘は無事だったこと、それに、イスラエル婦人もパレステイナ婦人も、ともに、元気な赤ちゃんを生んだことをも伝えていました。[註:( )内はイスラエルの新聞から。]

なのに、どうして、小倉記者はパレステイナ側のテロ行為を伝えなかったのだろうかと疑問に思います。検問所でのイスラエル兵士の非人道的行為を強調するため、同じ日、出産間近な妊婦にかかわることで、しかも、父親の死を耐えなければならなかったイスラエル婦人の事件は無視しされていいものでしょうか。それに、パレステイナ婦人は夫の射殺と言う不幸に遭いましたが、「非人道的」検問所でイスラエル側の応急手当を受け、病院に搬送されたので、無事出産することが出来ました。

「おんな・かみかぜ・テロリスト」で予測しましたが、このテロ以降、女性に対するチェックが厳しくなりました。「妊娠の確認」もその一つです。また、救急車が病人搬送と言う緊急車両の扱いを受けなかったとの指摘ですが、一昨年の10月、Intifadaが始まった当初、パレステイナ側が救急車で投石用に石を運んでいること、その後は、兵士や武器を運んでいると疑われています。

1月末、「おんな・かみかぜ・テロリスト」が出現したとき、どうして、ナブルスからエルサレムまで、いくつもの検問所を通り抜けることが出来たのか問題となりました。テロリストがパレステイナ赤十字病院勤務と分かると、救急車でエルサレム入りしたのではないかとの指摘がありました。3月8日、イスラエル軍がトルカムに侵攻した際、救急車が停止しなかったため、銃撃され運転手と看護婦が射殺されました。

パレステイナ側が救急車を病人搬送の緊急車両としてばかりでなく、他の目的のためにも使うとみて、イスラエル側では軍事作戦中は救急車を「救急車」と認めなくなりました。

イスラエル軍が軍事力に物を言わせ、多くの住民を殺傷し、建物や生活基盤を破壊している現状に怒りを覚えますが、イスラエル軍にこのような軍事行動を起こさせるのはパレステイナのテロリストです。イスラエルでは[目には目を]では国民を守れないと見ています。一人が殺されれば十人を殺します。

それに、イスラエルに住むものとして、テロリストの罪を指弾します。外に出れば、いつも、どこでも、生命の危険を感じます。予告なしに襲ってくるからです。どの道を通るか。右側を通るか、左側がいいか。不便さもあります。不特定多数が出入りするショッピングセンターやスパーに入るとき、必ず手荷物検査を受けます。テロリストがこのようなところで、買い物客に成りすまして事件を起こしたからです。

テロリストが人を殺傷する武器を置いて、イスラエルとの共存の話し合いのテーブルに着くとき、彼らの言い分の理解者になりたいとは思っていますが。